「こんな契約の手続きや事務処理って、コンサルの本質じゃないですよね」
プロジェクトの契約書作成や法務・購買との調整作業を命じた際、鼻で笑うようにそう口にした若手コンサルタントがいた。
彼らの頭の中にあるのは、「フレームワークを駆使した高高度な問題解決」や「経営陣を唸らせる戦略提案」といった華やかな世界だ。そのため、泥臭い事務手続きや契約の確認作業を「成長につながらない無駄な雑用」と吐き捨て、適当に流そうとする。
私が長年、泥臭い現場の修羅場を潜り抜けてきた立場から言わせてもらえば、この手の「事務作業軽視」の若手ほど、現場で真っ先に大炎上を引き起こして討ち死にする。
彼らは勘違いしている。契約や手続きは「雑用」などではない。激しいビジネスの戦場で自分の身を守り、クライアントと対等に渡り合うための「最強の防具(盾)」なのだ。
防具を持たずに丸ごしで戦場に飛び込み、「自分には攻撃力(戦略思考)があるから大丈夫だ」と叫んでいる愚かさに、なぜ彼らは気づけないのだろうか。
【問題提起】違和感の正体――私たちが現場で直面している「直視すべき現実」
契約書の一行を知らない「無知な戦略家」の末路
なぜ若手コンサルタントは、これほどまでに手続きや契約業務を嫌うのか。原因はシンプルだ。「自分のアウトプット=スライドの出来映え」だと思い込んでいるからである。
しかし、現場で実際にクライアントと金銭や責任の押し付け合いが発生した際、あなたを守ってくれるのは美しいロジックが書かれたパワーポイントではない。泥臭く締結された「契約書」と「手続きの履行履歴」だけだ。
トラブルが起きた時、手続きを軽視してきたコンサルタントはこう狼狽する。
- 「そんな前提条件は聞いていませんでした」
- 「スコープ外の作業ですが、クライアントに言われたので断れませんでした」
- 「契約書の責任範囲がどうなっているか、確認していません」
どんなに華やかな戦略を語ろうが、契約上のスコープ(作業範囲)や検収条件、損害賠償条項の理解が抜け落ちていれば、クライアントからの無茶振りに屈し、無償労働を強いられ、最後はプロジェクトを炎上させる。
「戦略的思考力」を自負しながら、自分がどんな条件で買われ、どこまで責任を負わされているのかすら把握していない。これほど滑稽で危険なプロフェッショナルが他にいるだろうか。
【独自持論】なぜこの構造が野放しにされるのか? 歪みが生む「本当の危機」
手続きとは「交渉権」を握るための裏の武器である
世間のビジネス書やファームの研修では、「イシューからはじめよ」「論理的思考力を磨け」といった「攻めのスキル(矛)」ばかりが強調される。
そのため、事務手続きや契約知識のような「守りのスキル(盾)」は、総務や法務がやるべき下働きだと切り捨てられてしまう。しかし、現場のリアルは全く逆だ。
契約書と手続きを完璧に把握している人間だけが、トラブル時に主導権(交渉権)を握ることができる。
| 比較軸 | 表向きの建前(手続きをバカにする若手) | 筆者が看破する裏のリアル(手続きを制するプロ) |
|---|---|---|
| 手続き・契約の位置付け | 成長を阻害する「無駄な雑用・事務作業」 | 自分とチームを守り、交渉権を握る「最強の防具」 |
| トラブル発生時の対応 | 「聞いていない」と慌て、スライドで説明しようとする | 契約の該当条項を叩きつけ、即座に責任境界を画定する |
| クライアントとの関係 | 無理な要求にも従わざるを得ない「請負業者」 | 契約範囲を盾に、対等な交渉と追加発注を引き出す「パートナー」 |
| 視座の高さ | 目の前の作業成果物(スライド)しか見えていない | 案件全体の収益性・リスク・ビジネス構造を俯瞰している |
| キャリアの行き着く先 | 現場作業に追われ続ける「作業員コンサル」 | 組織とリスクを統括する「マネジメント層・パートナー」 |
プロジェクトで予期せぬ変更やトラブルが発生した際、「業務の中身」と「契約上の整合性」を瞬時に結びつけられるコンサルタントは極めて強い。
「ここまでは契約の範囲内ですが、これ以上の要求は契約変更(追加費用)が必要です」と、根拠を持ってクライアントの役員級にノーを突きつけられるからだ。
手続きや契約を理解することは、単なる事務処理能力ではない。ビジネスの全構造を理解し、リスクをコントロールする「マネジメントの視座」そのものなのだ。これを見下しているうちは、一生「誰かの指示通りにスライドを作る作業員」から抜け出せるはずがない。
閾値を超える前に――個人が取るべき「具体的な自衛策と決断」
「攻め」しか知らない半人前を脱し、プロとして高いポジションへ上り詰めるために、今すぐ実践すべき「4つの行動指針」を提示する。
1. 担当案件の「SOW(業務範囲記述書)」と「契約書」を隅々まで読み込め
次にスライドを作る前に、自分がアサインされているプロジェクトの基本契約書とSOW(業務範囲記述書)を最後まで読み込め。
「自社は何を約束し、何を免責とされているのか」「請求の条件は何か」を把握せよ。契約書を読まずに作業をするのは、ルールブックを読まずにプロの試合に出場するようなものだ。
2. クライアントからの要求を「契約のフィルター」に通す癖をつけよ
顧客からの要望を受けた際、即座に「わかりました」と受けるな。
頭の中で「これはSOWの何ページ記載の範囲内か?」「追加の工数が発生する場合、変更管理手続きはどうなっているか?」というフィルターを通せ。この思考プロセスこそが、あなたを「都合の良い便利屋」から「頼れるビジネスパートナー」へと引き上げる。
3. 法務や購買との交渉・調整を「自ら買って出よ」
社内の法務部やクライアントの購買部との調整作業を、面倒くさがらずに自ら引き受けよ。
彼らと対等に議論するプロセスで、ビジネスにおける法的リスク、金銭交渉の裏側、企業が最も恐れている損害賠償の実態が嫌というほど見えてくる。この泥臭い場数こそが、あなたの視座を強制的に役員レベルへと引き上げる。
4. 「手続きを完璧にこなした上で、高高度な提案をする」順序を守れ
手続きや契約を完璧にコントロールできている人間がやる提案には、圧倒的な説得力と「実現可能性(リアリティ)」が宿る。
守り(手続き)を完璧に固めた上で、攻め(提案)に転じる。この基本動作を徹底せよ。事務作業を雑に扱う人間に、誰も大規模プロジェクトの全権など任せない。
まとめ & 読者への問いかけ
コンサルタントとしての格を決めるのは、「どれだけスマートな仮説を語れるか」ではない。「予期せぬ危機に直面した際、どれだけ頑丈な防具を着込み、チームを守り切れるか」だ。
事務手続きや契約処理を「無駄」と見下すのは、もうやめよう。それは自分の無知と視野の狭さを露呈しているに過ぎない。
泥臭い手続きの裏にあるビジネスの構造を理解し、契約という最強の盾を手に入れた時、あなたの提案は初めてクライアントを動かす本物の力を得る。
あなたはこれからも「華やかな雑用係」として、契約の壁に怯えながらスライドを作り続けるのだろうか?
それとも、契約と手続きを完璧に統括し、ビジネスの全責任を背負う「本物のリーダー」へと登り詰めるだろうか?
目の前にある契約書を開き、1行目から読み直すことから、すべてが始まる。
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