専門性偏重のコンサルはもう要らない? 顧客が求める「プロとしてやりきる力」と「事務員化」するコンサルへの警鐘

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コンサル時代に教わった 仕事ができる人の当たり前
「成果を出す人」は、何が違うのか?──現場で磨かれた“思考の型”が、あなたの仕事を変える。

導入:顧客が今、コンサルに抱く「不満」の正体

「私の専門外なので、その部分は〇〇チームに聞いてください」

最近、コンサルタントから、こんな言葉を聞くことが増えていませんか?

日本のビジネス社会で、コンサルタントの数は爆発的に増加しました。DX推進、事業再生、サステナビリティ対応…企業の課題が複雑化するにつれ、専門家へのニーズは高まる一方です。しかし、この「コンサル爆増」の裏側で、顧客側からは「コンサルタントは増えたが、課題は一向に解決しない」という、静かだが深いフラストレーションが溜まっています。

彼らが抱く不満の正体は、高額なフィーを支払い、期待を込めて迎えたはずのコンサルタントが、「顧客の真の課題解決」から逃避し、「自分の心地よい専門領域」に閉じこもるという、そのプロ意識の欠如です。

かつて、コンサルタントは「知の格闘家」であり、知見と推進力をもってあらゆる課題を打破する存在でした。しかし今、多くのコンサルタントが「研究者」のように自分の専門領域に偏重し、結果として使い勝手の悪い「偏食型コンサル」と化しています。

本稿では、コンサルタントの武器であるはずの「専門性」が、いかにして課題解決の足かせになっているのかを分析し、AI時代に真に求められるコンサルタントの「プロとしての仕事の定義」を問い直します。


1. 専門性の罠:「研究者コンサル」が生まれる構造的背景

専門分野への「偏り」が生む弊害

コンサルタントにとって専門性は最大の武器であり、キャリアを確立する上で不可欠な要素でした。特定の業界、特定の機能(例:SCM、人事制度設計、クラウド導入)において、誰よりも詳しい専門分野を持つことで、社内での立ち位置を盤石にし、顧客に対して大きな付加価値を提供できるからです。

だからこそ、多くのコンサルタントが専門分野の確立に向けて血道を上げ、専門性を高めることがキャリアの成功とされてきました。

しかし、その偏りの弊害は、あたかも研究者のように、自分の専門分野、専門知識にかかわることしかやらなくなることです。

これは「縦割り感満載の仕事の仕方」として顧客を悩ませます。

【事例:縦割りコンサルが招いた失敗】

ある製造業のDX推進プロジェクト。顧客が求めているのは「営業プロセス全体の抜本的改善」でした。しかし、アサインされたコンサルタント(A氏)は「SFA/CRM導入」の専門家でした。

  • 顧客の課題: 営業戦略、営業組織、インセンティブ制度、そしてツールの全てが絡み合っている。
  • A氏の反応: 「ツールの選定と導入は私の専門ですが、インセンティブ制度や組織設計はHRチームの領域なので、別途契約が必要です」「営業戦略は戦略ファームの仕事です」。

結果として、A氏はSFAの導入という「点」のタスクは完璧にこなしましたが、顧客が求めた「線」や「面」での抜本的な課題解決は実現しませんでした。顧客は、目の前の課題解決に寄り添わないA氏に対し、「専門知識はあるが、使い物にならない」という評価を下しました。

自分の専門分野を立ち上げそこで差別化する、という思いは素晴らしいものです。しかし、それが逆に、使い勝手の悪い、自分の心地よい領域でのみ活動する「偏食型コンサル」を爆増させてしまったのです。


2. AIが奪う「知識」と、コンサルに残される「本質」

この「専門性偏重の罠」は、生成AIの登場により、さらに致命的なものになりつつあります。

AIは「知識のキャッチアップ」を代替する

従来のコンサルティングの価値の根源には、以下の要素がありました。

  1. 知識:業界のベストプラクティスや最新技術の知見。
  2. 構造化:課題を分解し、解決策を論理的に組み立てる力。
  3. 推進力:顧客を巻き込み、物事を実行しきる力。

かつては、この中の「知識」のキャッチアップと保持に多大な時間がかかり、それがコンサルタントの付加価値の源泉でした。

しかし、生成AIは今や、数秒で最新の業界トレンドやベストプラクティスを要約し、「知識」自体は民主化されました。誰でも短時間で「知っている状態」になれる時代です。

ここに、「自分の専門外だから…」とシャッターを下ろすコンサルタントの価値は、もはやAI以下の価値になり得るという、極めて厳しい現実があります。なぜなら、AIに聞けば、その分野の概要と次に何をすべきかのヒントは得られるからです。

真に求められる専門性とは何か?

AIが知識を代替する時代に、真に価値のある専門性とは、「知識そのもの」ではなく、その「知識を使って、目の前の顧客の個別具体的な課題を価値に変えるプロセス設計力」にシフトします。

コンサルタントは、サービス業という位置づけです。顧客が実施したいこと、解決したい課題の実現に向けて、あの手この手でサポートする。それが今、求められています。

「専門外」であっても、知らなくても、数日で一般の人よりも高いレベルで知見を素早くキャッチアップし、あたかも専門家のように活動する。必要なものを迅速に準備し、物事を推し進める。この「知の瞬発力」こそが、AI時代におけるコンサルタントの新しい専門性なのです。


3. プロとしてやりきる力:不安定を楽しむコンサルタントの条件

「専門外だから…」と断っている時間はありません。コンサルティングは、顧客の課題という「不安定な状況」に飛び込み、それを解決することで対価を得る、まさに日々課題解決をする職業です。

これは、プロとしての仕事をやりきる力と言えます。

プロとしての仕事をやりきる力とは?

この力は、以下の要素で構成されます。

1. クイックラーニング力(知の瞬発力)

自分の専門外の領域に直面した際、数日でその分野の基礎知識、業界のボトルネック、成功要因を徹底的にインプットし、あたかも数年経験があるかのように振る舞える能力。これは、効率的な情報収集と、構造化思考によって支えられます。

2. アカウンタビリティ(成果に対する執着心)

「私の担当はここまで」ではなく、「顧客の課題が解決すること」を自分の責任範囲と定義するマインドセット。課題が解決するまで、必要なリソース(自社他部門の専門家、外部ベンダーなど)を巻き込み、動かしきる推進力こそがプロの証明です。

【事例:プロとしてやりきったコンサルタント】

ある大手流通業の在庫管理システム刷新プロジェクト。コンサルタントB氏の専門は「ITインフラ」でした。しかし、プロジェクト開始後、在庫管理部門のベテラン社員から「新しいシステムは現場の棚卸し作業の現実を知らない」と強硬な反発を受けます。

  • B氏の対応: 「インフラ専門外なので」と逃げずに、自ら3日間、物流倉庫で棚卸し作業に同行。ベテランの作業の「暗黙知」とシステムの「論理」の間に決定的なズレがあることを発見しました。
  • 成果: B氏は、自分の専門外であった「業務プロセス」と「組織文化」の課題を真っ先に吸い上げ、IT専門家としてではなく、プロジェクト全体を成功に導く責任者として、顧客とベテランの橋渡し役を演じました。これにより、システムはスムーズに導入され、現場の生産性も向上しました。

B氏が示したのは、自分の専門分野を越えてでも、顧客の理想を実現することを手助けする存在になるというプロの覚悟です。


結論:安定を求めたコンサルは、単なる「高級事務員」になる

知らない、経験のないことに直面する毎日。たしかに、この仕事の仕方は大変です。しかし、それを承知でコンサルティングという職を選んだはずです。

マインドセットの転換を

今のコンサルティング業界の若い世代の中には、「安定して、定型的な仕事」を求めている人材が多く見受けられます。これは、専門性の細分化という名のもとに、自分の殻に閉じこもり、リスクを避ける安定志向に他なりません。

顧客の複雑な課題に対し、定型的な提案しかできず、「この作業はマニュアルにないから」と拒否する人材は、早晩、コンサルタントとは呼ばれなくなるでしょう。彼らは、高額なフィーを受け取る単なる「高級事務員」と化します。

AIが知識を代替し、ルーティンワークを効率化する時代において、コンサルタントの存在意義は、知識と知識の「間」にある課題を解決し、複雑な関係性を推進力に変えるという、人間にしかできない仕事に集約されます。

若手コンサルタント、そしてこの道を選ぶ全ての人へ。

今こそ、「不安定さ」の中に飛び込み、自分の専門外の課題に対して「プロとしてやりきる覚悟」を持てるかどうか。それが、あなたが生き残り、真に顧客から求められるコンサルタントであることの証明となるでしょう。

課題解決のプロフェッショナルであり続けること。その覚悟こそが、コンサルティングの本質です。


コンサル時代に教わった 仕事ができる人の当たり前
「成果を出す人」は、何が違うのか?──現場で磨かれた“思考の型”が、あなたの仕事を変える。

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