コンサルティングと専門性は何だろう

仕事の環境


専門性の本質と一時性

「専門性は武器である」と言われることがある。たしかに、誰かに相談したくなる場面はあり、そのテーマに詳しい人がいれば頼りたくなる。だが、そうした「必要」は、個人にとっては限定的で、頻繁に起こるものではない。

しかし、不特定多数の人々の「一時的な必要」を積み重ねれば、一定の需要が生まれる。この集合的な需要に応えるために、あらかじめ専門性をストックしておくことで成立するのが、コンサルティングというビジネスだ。

とはいえ、ほとんどの人にとって専門家の助けを求める場面は一過性であり、そのために使われる専門性も、短命で消費される。専門知識は時とともに陳腐化し、ニーズがなくなれば一瞬で価値を失う。このように、コンサルタントが有する専門性は、根本的には「一時的」な性質を持っている。


現代のコンサルティングの役割

近年では、サステナビリティや環境配慮といったテーマに関連して、さまざまな新しい制度や規制が生まれている。それに直面する企業は、対応を迫られ、コンサルタントに助けを求める。しかし、企業の担当者自身も、それらの制度が一時的な流行に過ぎないことを理解している。

だからこそ、企業はゼロから知識を獲得しようとはせず、外部のコンサルタントに依頼する。自社で完全に対応するのはコストパフォーマンスが悪く、必要な情報だけを一時的に購入するという判断が合理的なのだ。

この構造を見ると、コンサルタントとは「便利屋」のような存在であり、一時的な知識や作業の代行業者としての側面が強い。そこで発揮される専門性も、社会からはあくまで「その程度のもの」と見なされている可能性がある。


コンサルタントの強みと限界

専門性とは積み上げによって差が生まれるもののように思われがちだが、変化の早い現代では、それが本当に差別化につながるとは限らない。多くのコンサルティング業務は、「そのときだけの専門性」に支えられている。

このような現実を踏まえると、コンサルタントに求められる本当の強みは、必要とされる知識や考え方を誰よりも早く形式知に変え、それを他者に分かりやすく提供する力である。すなわち、基礎知識を収集・整理し、他者が「わかったつもり」になれるように橋渡しをする能力が重要なのだ。

このため、コンサルタントという職業には、短時間で効率的に学び、成果を出せる「秀才型」の人材が向いている。資格試験や受験勉強のように、短期間で高得点を取るための思考回路とスキルがそのまま生かされる場面が多い。


起業家・経営者との違いと再評価

一方で、優秀なコンサルタントがそのまま優秀な起業家や経営者になれるかといえば、決してそうではない。起業家には、まだ誰も気づいていないニーズを見抜き、事業の形にしていく力が求められる。これは、既存の知識を加工・再利用するコンサルタントの仕事とは、性質が大きく異なる。

さらに、経営者や起業家には、時に非合理な意思決定を下すことが求められる。「説明可能な正しさ」よりも、信念や直感に基づいた決断が重要になる場面もある。常に合理性を重視するコンサルタントの姿勢とは対極にある。

こうした違いを踏まえると、今の世の中でコンサルタントという職業が過度に高く評価されているようにも感じられる。もちろん、価値がないわけではない。しかし、自身が十数年この職に携わってきた経験から言えば、世間的な評価にはやや違和感を抱かざるを得ない。


見直されるべき職業観

コンサルタントという職業は、確かに知的で洗練されたイメージを持たれている。しかし、その実態は、一時的な知識や作業を効率的に提供する「情報の橋渡し役」としての色合いが強い。

この職業をどう評価するかは人それぞれだが、今の世の中で語られているほどには、本質的な価値が高いとは言いがたい――それが、長年この仕事に従事してきた者としての実感である。

コメント

タイトルとURLをコピーしました