はじめに:若手コンサルへの“自由企画”施策からの気づき
最近、社内で若手コンサルタントたちに「自分がやりたいこと」を自由に企画させ、予算を少額つけて実行してもらう施策を行いました。
目的は、主体性やビジネス視点を養うこと。加えて、現場業務とは異なる切り口から新しいビジネスの芽を発見する機会になればと考えたのです。
ところが、上がってきた企画を見ていると、ある疑問が頭をもたげてきました。
「これは本当に“ビジネス”の企画なのだろうか?」「研究としては面白いが、クライアントや市場を動かす意義があるのだろうか?」
この違和感は、いわば 「コンサル」と「研究」の区別が曖昧なまま、企画が立ち上がっている ことへの疑問でした。
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コンサルと研究は“分析プロセス”は似ているが、出口が決定的に異なる
コンサルティングとアカデミックな研究は、プロセスの初期段階では共通点が多くあります。
- 問題を定義し、
- 情報を集め、
- 仮説を立て、
- 分析し、
- 構造を明らかにする
この点においては、どちらも非常に論理的で、知的な営みであることに変わりはありません。
しかし、決定的に異なるのは「出口(成果の定義)」です。
観点 | 研究 | コンサル |
---|---|---|
成果の目的 | 世界の真理や構造の解明 | 課題の解決とビジネスの成果 |
アウトプットのゴール | 論文・知見の明文化 | 実行可能な打ち手・改善案 |
価値の評価軸 | 理論的独創性や妥当性 | 実務的な貢献度・収益性 |
研究の成果は「この分野の知を一歩進めたか」によって評価されます。
一方で、コンサルタントが提供すべき価値は、「この企業が明日から前に進める打ち手になっているか」「収益や組織改善といった実行力のある提案か」によって判断されます。
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具体的に起きた“誤解された自由企画”の例
今回、若手から出てきた企画の中には、例えばこんなものがありました(少し書きぶりはぼやかしたり、差し替えたりしています。念のため)。
- 「SNSにおけるZ世代の言語変化を可視化し、次の文化潮流を探る」
- 「職場での会話の抑圧と心理的安全性の相関分析」
- 「地方におけるコミュニティ型働き方の実践例と類型化」
いずれも、テーマとしては非常に面白いもので、リサーチとしての価値も高いものでした。
しかし、これらは“そのままでは” クライアントの課題を動かすビジネス企画にはなりにくい のです。
たとえばSNSの言語研究が、具体的にどのプロダクト改善に使えるのか?
職場の会話分析が、どんなKPIに結びつき、何を変える打ち手になり得るのか?
この「当事者としての解決責任」まで含めて設計されていなければ、それはコンサルの成果とは言えません。
「ビジネス成功への意識」がなければ、それは研究である
若手企画にありがちな失敗は、自分の興味を原点とした「良い問い」からスタートしながらも、ビジネスの現場に戻ってこないという点にあります。
- 「当事者の課題に向き合う姿勢」
- 「その成果が収益や効率、競争力につながる視点」
- 「クライアントの“次の一手”に資する実行可能性」
これらがなければ、それはサイドストーリーに過ぎず、戦略や業績に寄与しない“優れた読み物”で終わってしまいます。
「若手=イノベーションの源泉」という幻想
ここでよくあるもう一つの誤解が、「若手の自由な発想こそがイノベーションを生む」という主張です。これは企業のブランディングとしては耳あたりが良いですが、実態はむしろ逆です。
実際の新規事業や改革プロジェクトでは、
- 経験豊富なマネージャーが事業リスクや業界構造を読み、
- その中に若手の視点が「スパイス」として差し込まれることで、
- ようやく“意味のある革新”として成立する
というケースがほとんどです。
「若者の視点=万能」という幻想が、“課題設定力”を曇らせ、自分の関心から出発した「面白そうなこと」を“価値”と錯覚させてしまう。この現象こそが、現代の若手育成における落とし穴だと感じています。
コンサルタントに必要な姿勢とは
最終的に、若手コンサルタントに求められるのは、「成果とは何かを定義できる感覚」だと思います。つまり、「分析」や「可視化」にとどまらず、
- この仕事の出口は何か
- 誰のどんな行動を変えるのか
- それによって何が良くなるのか
という問いを、常に自問自答しながら進められること。
コンサルタントとは、問題の解像度を高めるだけでなく、それを 「経済価値」や「行動変化」につなげる人間である。
その原点に立ち戻って、若手育成のあり方も再考する必要があると感じています。
補足:研究が否定されるべきということではない
もちろん、研究そのものを否定するつもりはまったくありません。人類の知を深める営みとして、また長期的に社会や産業に大きな価値をもたらすものとして、研究の重要性は計り知れません。
ただし、コンサルティングとは異なる職能であり、異なる出口を持つ営みであるという線引きは、現場で明確にしておく必要があるのだと痛感した次第です。
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