異動辞令が届いた瞬間、私は一瞬フリーズしました。未知の分野で、業績も士気も最低レベルの「問題だらけの部署」。足を踏み入れた瞬間に感じたのは、疲弊した部下たちと上司からの厳しいプレッシャー、そして「どうせ何をしても無駄」という空気。新任マネージャーとしての船出は、嵐の真っ只中でした。
そんな中で私が考えたのは、「どうすればこの職場が機能する組織に変わるか」。結論は、個々の能力頼みではなく、職場全体が動く仕組みを整えることでした。その一環として取り入れたのが、週次の1on1ショートミーティング。短いながらも濃密な対話を通じて、課題の明確化と解決策の模索を進めました。
今回は特に印象深かったTさんのケースにスポットを当て、課題解決への奮闘をご紹介します。
前回記事:新任マネージャー奮闘記#03:効率重視のあまり不要と感じる作業を省略しがちなTさんのケース
Tさんの特徴と課題
Tさんは業績管理が得意で、論理的で信頼感があります。人当たりも良く、周囲からの評判も高い。
しかし、効率重視の性格が災いして、不要と感じた作業を勝手に省略してしまう傾向がありました。また、負担が増えると愚痴が多くなるのも困りものです。
「効率を求めるのは悪いことじゃない。でも、チーム全体のバランスを考えた動きが必要だ。」そう思い、週次1on1を通じて、彼の意識改革を試みました。
- Tさんの概要:
業績管理を得意とし、ロジカルで信頼感がありますが、負担が増えるとすぐに愚痴を漏らし始めるのが課題。効率重視の性格で不要な作業を省きがちですが、チーム全体のバランスを考えた動きが求められます。
見えてきた本質的な問題
Tさんとの対話を重ねる中で、彼がゼロベースで考えることを極端に嫌がる傾向が浮き彫りになりました。
定型作業やルーチンワークは完璧にこなせるのに、何もない状態から新しいアイデアを考え出すのは苦手。その理由を探ろうと話し合うものの、深掘りをすると彼自身も答えに詰まってしまいます。
例えば、上司から「これまでにない新しい方法で対応してほしい」と無茶ぶりがあった際、Tさんはその課題をゼロから考えることなく、従来の定型作業を繰り返すだけでした。根本から問題を整理し、新たな解決策を見出す必要があったのに、彼は踏み込もうとしないのです。
Moleskineノートブック
考えを整理し、アイデアを形にするのに最適なツール。Tさんの1on1にも活躍しそう。
「ゼロベース思考」を育てる難しさ
地頭が良く、能力も高いTさん。
しかし、「ゼロベースで考える」ことに対する抵抗感は根深いものでした。私がアイデアを出せば、表面上は納得しているように見えるものの、自発的に動くことはほとんどありません。
では、ゼロベース思考を伸ばすことは諦めるべきなのか?正直なところ、彼の年次を考えると、これ以上大きな意識改革を求めるのは難しいかもしれません。
自己啓発本『ゼロベース思考のすすめ』
マインドセットの転換をサポートする一冊。チームで共有しても効果的。
Tさんの強みを活かす道を探る
そんな中でたどり着いた結論は、「ゼロベースが苦手でも、それを補う環境や役割を整えること」。
Tさんの良さが発揮される場に集中してもらい、ゼロベースが必要な場面では別の人材をアサインする。いわば「適材適所」の再構築が鍵だと感じています。
ロジカルシンキング研修キット
チーム全体で学びながらゼロベース思考を鍛えるための教材セット。
新任マネージャーとして学んだこと
今回のTさんのケースを通じて、私は「全員が万能型である必要はない」というシンプルな事実を改めて実感しました。
ゼロベース思考が苦手であれば、その代わりに定型作業や業績管理といった彼の強みを最大限に活かせる環境を整える。それがチーム全体の力を引き出し、結果として組織全体の成果に繋がるのです。
マネージャーとして大切なのは、課題を指摘するだけではなく、部下それぞれの良さを認め、最適な役割を見つけてあげること。それこそが、職場にポジティブな変化を生み出す第一歩だと感じています。
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