「生成AIがあれば、面倒な議事録や調査レポートの作成が一瞬で終わる。これでお仕事がグッと楽になるぞ」
そんな甘い神話を、どこかのビジネス雑誌やセミナーで見聞きして、胸をなでおろしていた時期が私にもあった。
昔を思い出してほしい。
若手コンサルタントが3時間も5時間も血眼になって文字起こしをし、議論の行間を必死に読み解きながら形にする。手間はかかるが、そこには「プロジェクトの全体像を体に染み込ませる」という大切なプロセスがあった。
だが、今やどうだ。
AIを使えば、会議のベースとなる議事録など一瞬で吐き出される。若手の大切な修行の場だったその作業時間は、きれいさっぱり消え去った。
表向きの数字や効率だけを見れば、労働時間は激減し、私たちは自由を手に入れたはずなのだ。
しかし、現実はまったく逆だった。
効率化が進んだ瞬間から、私たちの首を絞める狂気のカウントダウンが始まっていたのだ。
AIで仕事が消えるどころか、要求スピードが狂い始めた現場の現実
生成AIの普及によって真っ先に何が起きたか。
それは、クライアント側の「時間軸の崩壊」である。
今まで「会議後1週間以内にお送りします」と言い訳がましく許されていた提出物が、今や「会議終了後1時間以内にドラフトを出してほしい」という仕様に変わりつつある。
なぜなら、クライアント自身もAIの威力を知っているからだ。
「あなたたちがAIを使っているなら、それくらいのスピードで出せるはずだよね」という無言のプレッシャーが、異常なまでのスピード感となって私たちに突き刺さる。
さらに事態を悪化させているのが、顧客側のインハウス化の波だ。
「わざわざ高い金を払って調査やレポートを作ってもらうまでもない。うちの社員がAIに聞けば、それっぽいレポートが瞬時に出てくるから」
そう言って、自社でAIを活用し始める企業が増えた。
一見すると、コンサル不要論の到来のようにも思える。だが、本当の地獄はその先にあった。
顧客側がAIで作った「中途半端なレポート」を盾に、「うちはこれでいこうと思うんだけど」とドヤ顔で持ち込んでくるようになったのだ。
生成AIがもたらした最大の悲劇、「勘違い顧客」の暴走
プロの目から見れば、そのAI出力のレポートがいかに表面的なお遊戯であり、致命的な論理の抜け落ちがあるかは一発でわかる。
しかし、そこに致命的な難しさがある。
AIによって「自分も賢くなった」と勘違いし、鼻息を荒くしている顧客に対して、「そのレポートは使い物になりません」などと正面から伝えたらどうなるか。
プライドを傷つけられた顧客との間に修復不可能な溝ができ、プロジェクトは一瞬で暗礁に乗り上げる。
私たちは今、データの分析やスライドの美しさを競い合っているのではない。
AIが生み出した「にわか知識」と「肥大化したプライド」を持った顧客の機嫌を損ねないようにしつつ、角が立たないように事実を上書きしていくという、極めて泥臭い「感情の交通整理」に膨大なエネルギーを奪われているのだ。
仕事が楽になるどころか、知的生産の側面がAIに奪われ、残ったのは「人間の機嫌を取る情緒的な労働」ばかり。
綺麗なフレームワークやスマートな提言だけでは、もはや今の現場は1ミリも動かない。
私が始めた、AI時代の泥臭いサバイバルと感情のマネジメント
この現実を目の当たりにして、私は自分のスタンスを完全に切り替えることにした。
「スマートに知的労働をするコンサルタント」という幻想を、きっぱりとゴミ箱に捨てたのだ。
- AIが作った奇麗なレポートや効率的な作業に逃げない
- 顧客がAIで武装して暴走する前に、感情の機微を先回りして察知する
- 論理の正しさで殴り合うのをやめ、泥臭い合意形成のテーブルを自らデザインする
効率化の果てに残ったものは、結局のところ「生身の人間同士の信頼関係」でしかなかった。
AIがどれだけ進化し、一瞬で綺麗なスライドやレポートを出せるようになっても、組織の利害関係を調整し、拗れた人間関係の糸を一本ずつ解いていく泥臭い仕事は、私たち人間にしかできない。
いや、むしろAIが便利になったからこそ、その「感情のお世話」の価値が跳ね上がっているのだ。
最後に:効率化の先にある「生々しい現場」を生き抜くために
「AIで仕事が効率化されて楽になる」という言葉を鵜呑みにしてはいけない。
技術が進化すればするほど、私たちの仕事はより先鋭化し、より人間臭い部分に負荷が集中する。
もしあなたが今、AIの普及と顧客の要求の変化の挟み撃ちにあい、「何だか以前より息苦しいぞ」と感じているなら。
それはあなたが劣っているからではなく、現場の構造がパラダイムシフトを起こしているからだ。
綺麗事を並べるコンサルティングはもう終わった。
これからは、AIという冷徹な道具を使いこなしながら、人間のドロドロとした感情の泥をかぶれる者だけが生き残る。


コメント